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福島地方裁判所いわき支部 昭和49年(ワ)159号 判決 1975年10月20日

原告

高橋栄

ほか一名

被告

鷺衆司

ほか一名

主文

一  被告らは各目原告高橋栄に対し金二四万四、〇六一円、同高橋カホルに対し金九万七、一八四円と右各金員に対する昭和四九年一〇月一〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求はいずれもこれを棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告ら

(一)  被告らは各自原告高橋栄に対し金一五〇万円、同高橋カホルに対して金一五〇万円と右各金員に対する昭和四九年一〇月一〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行宣言。

二  被告ら

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

(三)  仮執行免脱宣言。

第二主張

一  請求原因

(一)  (事故の発生)

訴外高橋克仁(以下、「克仁」という。)は、左記交通事故(以下、「本件事故」という。)により頭蓋骨々折・左上腿骨々折の傷害を受け、これに起因する脳内出血のため事故後約一〇分で死亡するに至つた。

1 日時 昭和四八年一月二四日午前一〇時一三分頃

2 場所 福島県いわき市小名浜字林の上一九番地の三先付近路上(以下、「本件事故現場」という。)

3 加害車両 普通貨物自動車(福島四四そ六二四五号)(以下、「本件加害車両」という。)

4 事故の態様 後部左側車輪で轢過

(二)  (責任原因)

1 被告鷺 民法七〇九条

同被告は本件加害車両を運転して商品を搬送していたものであるが、本件事故現場の道路(幅員約三・七五メートル)西側の訴外岡本商店前で停車して商品を下ろし、その後本件加害車両を道路右側より左寄りに発進したが、かゝる場合、車両の周囲に通行人や幼児などがいないか後方の安全を確認して発進すべき注意義務があるのにこれを怠り、たまたま母親である原告カホルの傍で本件加害車両左斜前方において遊んでいた克仁に気付かず、これを自車左後輪で轢過し、前記のとおり死亡するに至らしめたものである。

2 被告会社 自賠法三条

同被告は本件加害車両の保有者である。

(三)  (損害)

1 克仁 計金八二一万六、九二八円

(1) 逸失利益 金六二一万六、九二八円

克仁は昭和四六年七月二〇日生れの男児であつて死亡当時満一年六月であつたから、昭和四六年簡易生命表(厚生省大臣官房統計調査)によればその平均余命は七〇・七六年であり、その就労可能年数は四五年で賃金構造基本統計調査によると、福島県における全産業統計の平均賃金は月額金五万三、八〇〇円で賞与等は年間金一四万二、九〇〇円であるから、その年間収入は合計金七八万八、五〇〇円となり、このうち生活費として五割を控除してホフマン式計算法によりその逸失利益の現価を算定すると金六二一万六、九二八円となる。

(2) 慰謝料 金二〇〇万円

2 相続 各金四一〇万八、四六八円宛

原告栄は克仁の父であり、同カホルはその母であるところ克仁には他に相続人はないから克仁の右損害金八二一万六、九二八円はこれを原告らが各二分の一宛相続した。

3 原告栄 合計金一三五万五、二四四円

(1) 慰謝料 金一〇〇万円

(2) 治療費および遺体処置料 金八、五六〇円

(3) 葬儀料 金二四万六、六八四円

(4) 弁護士費用 金一〇万円

4 原告カホル 合計金一一〇万一、五〇〇円

(1) 慰謝料 金一〇〇万円

(2) 弁護士費用 金一〇万円

(3) 付添料 金一、五〇〇円

5 損害の填補 各金二五〇万四、二八〇円

原告らは本件事故に関し自賠責保険から金五〇〇万八、五六〇円の給付を受けたので、これを相続分に従い二分の一宛充当した。

従つて、原告らが被告らに対して賠償を求め得べき損害額はそれぞれ次のとおりとなる。

(1) 原告栄 金二九五万九、四二八円

(2) 原告カホル 金二七〇万五、六八四円

(四)  (結論)

よつて、原告らは右損害額のうち各金一五〇万円宛とこれに対する本件事故の後である昭和四九年一〇月一〇日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)項の事実は認める。

(二)1  同(二)項の1の点は争う。被告鷺にはなんらの過失もない。

2  同(二)項の2の克仁と原告らの身分関係は認めるが、克仁の損害額は争う。

(三)  同(三)項の2および5の填補額の点は認めるが、その余はすべて不知。

三  抗弁

(一)  免責(被告会社)

1(1) 被告鷺は岡本商店の岡本晴雄と一緒に別紙現場見取図<1>点に停車させた本件加害車両の後部荷台からみかん箱を降ろしたが、その当時克仁は原告ら宅付近で地面の掃除をしていた原告カホルの傍で棒切れを持つて遊んでいた。右荷降ろしを終えた同被告は後部荷台の荷枠を閉めるため左右のあおり止めハンドルをロツクしたが、左のハンドルをロツクする際、同(一)点で点に原告カホルが<イ>点に克仁がいるのを見た。それから同被告は矢印の方向に歩き右側ドアーから運転席に入り、エンジンを始動させながら助手席のドアー窓越しに左側を見、次いで左バツクミラーで左側後方の安全を確認した。しかし、点に原告カホルの姿しか見えなかつたので、安全と判断して徐行発進したところ、その直後に左後輪部に抵抗を感じ、続いて叫び声がしたので、直ちに<2>点で停車した。

右のとおり、被告鷺は本件加害車両を発進・進行させるについては、車両周辺に対する安全確認の措置を完全に果たしており、なんらの非違もない。

なお、本件加害車両の左バツクミラーには地上一・二三メートル未満はこれを見ることができない死角があつたが、本件の場合、克仁が右死角内に立ち入り本件加害車両に近づいて来るというような危険性は到底予想し得なかつた。即ち、本件事故当時、克仁は満一年六月の足許も定かでない幼児であつたが、このような幼児の傍らにその母親が付添つていることを確認した運転者にとつては、よもや母親がエンジンを始動させて正に発進しようとしている車両を目前にしながら幼児から目を離し、幼児が車両に近かづいて右死角内に立入つていることに気付かないでいるなどということは絶対にないものと信頼するのは極めて自然である。従つて、被告鷺が発進に際し、前記のとおり安全確認の注意義務を尽したうえで、視野に入らなかつた克仁については、その母親である原告カホルが手をつなぐなどして、仮にも本件加害車両に近づくことのないように充分に監護している筈だと信頼したことは、全く無理からぬことというべきである。

(2) 本件事故は、未だ危険の何たるかを弁護する能力のない克仁の生命・身体の安全を護るべき全面的な監護義務を負つていた母親たる原告カホルの監護義務の懈怠によつて惹起されたものと言わざるを得ない。

即ち、一メートルもない至近距離で本件加害車両が発進しようとしているのを目にしながら、克仁に対する注意を怠り、克仁が本件加害車両に近かづきその左後輪付近でつまづいて車体下に倒れ込んだのに気付かなかつたもので、叙上の状況に鑑みるならば、母親として到底考えられないような甚しい不注意があり、ひとえに原告カホルの不注意によつて本件事故が発生したものと言わざるを得ない。

2 被告会社は平素被告鷺をはじめ従業員に対し交通安全の趣旨徹底をはかると共に、運行管理についても万全の注意をはらい、本件加害車両についても定期車検はもとより就行の前後において必ず点検整備を励行させていた。従つて、本件加害車両の運行につき注意を怠らなかつたことは勿論である。

3 本件加害車両には、本件事故と因果関係を否定し得ない構造上の欠陥や機能上の障害も全くなかつた。

(二)  過失相殺(被告ら)

克仁の母親である原告カホルには、前項1の(2)のとおりの過失があつたから、右過失を斟酌して原告ら並び克仁の損害は相殺されるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因(一)項(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  責任

被告鷺

〔証拠略〕を総合すると、次の各事実を認めることができる。

1  (1) 本件事故現場は住宅街の歩車道の区別のない幅員約三・三メートルの非舗装の市道上の地点であり、その北東側には右市道と接つして原告ら宅があるが、原告ら宅敷地と右市道との間には垣根あるいは塀などの設備はなんら設けられていなかつた。

(2) 本件加害車両は右ハンドルの普通貨物自動車であつて、左前フエンダーの地上一・四メートルにバツクミラー(縦二〇センチメートル、幅一〇センチメートル)が設置されており、被告鷺がその運転席に座した場合、右バツクミラーによつて別紙見取図の赤斜線部分を見通すことが可能であるが、右見通し可能範囲内にあつても、地上一・二三メートル未満は死角となつていた。

(3) 被告鷺は本件加害車両を別紙見取図<1>点に停車し、エンジンを停止させた後、青果商「岡本商店」こと訴外岡本晴雄とともに積荷であるみかん箱を降ろした後、荷台後部の荷枠を閉めるべく左右のあおり止めハンドルをロツクしたが、その際同見取図<一>点において、同点に原告カホルがその傍らの同<イ>点に克仁が居るのを認めた。

なおその際、被告鷺は、克仁が歩き始めて間もない幼児であること、そして付近には原告カホルの他には克仁の保護者とおぼしき成人のいないことに気付いていた。

(4) その後、被告鷺は本件加害車両の後尾右側を別紙現場見取図の黒矢印の如くまわつて右側ドアーから運転席に入りエンジンを始動させながら左右のバツクミラーを見、次いで助手席側ドアーの窓越しに自車左方に目を移したが、その際窓越しに自車の動静には無関心な様子で同見取図点に立つている原告カホルの姿(但し、胸から下の部分はドアーにさえぎられて見えなかつた。)が目に入つたが、克仁の姿はいずれの場合にも視野にはいらなかつた。

しかし、被告鷺は克仁の姿が視野にはいらなかつたことについても格別の危惧の念を抱かず、ばく然と原告カホルの傍に居るものと考えてそのまゝ発進したところ、発進直後に左後部車輪に抵抗を感じるとともに続いて悲鳴が聞えたので、直ちに同見取図<2>点に停車し、降車したが、その際には原告カホルが克仁を抱えて同見取図点に居た。

(5) 一方、原告カホルは別紙現場見取図<タ>点に置いてあつたダンボール箱からごみをいれたビニール袋を取り出してこれを約一〇メートル程離れたごみ集積場に捨ててきて自宅前に戻つて来た際に、本件加害車両が同見取図<1>点に停車するのを認めた。

そして、本件加害車両が停車した後、同見取図点で同見取図<イ>点に居た克仁にチーズを与えていたが、本件加害車両ないしはその運転者たる被告鷺の動静には特に注意を払うこともなく、克仁を右<イ>点に置いたまゝ、右ダンボール箱から残りのビニール袋を取り出すべく右<タ>点に向つて歩き出したが、その直後に本件加害車両が発進した気配を感じて本件加害車両の方を振向いたところ、克仁は同見取図<×>点に仰むけに倒れており、その顔面上に本件加害車両の左後部車輪が乗り上がつているのが目に入つた。

(6) 克仁は昭和四六年七月二〇日生れの男児であつて、健康にも恵まれて順調に成育し、満一才の誕生日をむかえた頃には歩き始めたが、本件事故当時にあつてもその身長は一メートルにも満たなかつた(なお、満一年六月の男児の標準身長が七八・九センチメートル程度であることは公知である。)。

以上のとおり認めることができ、〔証拠略〕のうち右認定に反する部分はいずれもたやすく措置できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  しかして、右認定事実を総合して勘案すると、次のとおり判断される。

即ち、克仁は原告カホルが目を離した隙に、発進寸前の本件加害車両に近かづき転倒し折から発進進行し始めた本件加害車両から本能的・反射的に逃がれようとして転がつて仰むけになつた瞬間、あるいは発進寸前の本件加害車両の左後部車輪付近にまで立入つていた克仁が発進進行し始めた本件加害車両の車体などに触れて仰むけに転倒しその瞬間に本件加害車両の左後部車輪で顔面から頭部を轢過されたものと推認されるところ、被告鷺は積荷を降ろし終え発進準備をしていた時点において、本件加害車両から僅か一・一メートル程度しか離れていない地点に克仁が居るのを認め、かつ、克仁が未だ歩き始めて間もない身長も一メートルにも到底満たない幼児であることを認識していたのであり、そのうえ、エンジンを始動させながらバツクミラーで、次いで助手席側ドアーの窓越しに自車の左後方ないし左方の安全を確認した際には、克仁の姿は視野にはいらず、原告カホルが自車から〇・八三メートル程の至近距離に立つているのを見ただけで、原告カホルが自車の動静には無関心な様子であるのを認めたというのであつて、しかも、運転席に座したまゝでは、バツクミラーによつても、あるいは窓越しに見たのみでは矮小な克仁が本件加害車両と接触ないし衝突する危険性のある域内に入り込んでいないかどうかはこれを確認し得ない状況にあつたのであるから、かゝる場合には、自動車運転者としては、発進するに先立つて少くとも原告カホルに声をかけるかあるいは警音器を吹鳴するなどして注意を喚起し警告を与え、これによつて原告カホルをして克仁を本件加害車両の付近から退避せしめ、抱きあげるあるいは手を繋ぐなどの保護措置をとらしめたうえで発進進行し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたものと解するのが相当である。

しかるに被告鷺は、漫然と克仁は原告カホルの傍に居て原告カホルが克仁を保護しているものと軽信して、運転席に座したまゝでバツクミラーによつて自車左後方を、次いで助手席側窓越しに左方の安全を確認したのみで警音器を吹鳴するなどの原告カホルに対する注意喚起ないしは警告の措置をとらないまゝ本件加害車両を発進進行させ、もつて前示注意義務を尽さず、その結果叙上認定のとおり克仁をその左後部車輪で轢過して死亡するに至らしめたのであるから、民法七〇九条にもとづいて克仁並びに原告らが本件事故により蒙つた損害を賠償すべき責任を負うものといわざるを得ない。

(なお、被告らは、被告鷺は視野にはいらなかつた克仁については母親たる原告カホルにおいて自車に近かづくことのないように充分に監護しているものと信頼していたが、同被告が右の如く信頼したのは無理からぬところである旨主張するところ、本件にあつては、叙上のとおり、被告鷺はエンジン始動後発進するまでの間に原告カホルが本件加害車両の動静に格別の注意を払わず却つて無関心な様子であつたことを認識していたのであるから、例えば、原告カホルがエンジン始動音などによつて本件加害車両が発進しようとしているのに気付き克仁に対し手を繋ぐなどの措置を構じたのを現に確認した場合とか、あるいは被告鷺が前示あおり止めのハンドルをロツクした際などに原告カホルに発進する旨を伝えて予め注意を喚起し警告を与えていたような場合などとは事情を異にし、被告鷺が右の如く信頼したとしても、その信頼は客観的にみて相当であつたとはいえないものというべきである。

従つて、本件においては、その前示具体的事情に照し、被告ら主張の信頼の原則を適用することはできないものといわなければならない。)

(二) 被告会社

被告会社が本件加害車両の保有者であることは当事者間に争いがないところ、被告会社は免責の抗弁を主張するが、本件加害車両の運転者たる被告鷺に過失のあつたことは叙上認定判断のとおりであるから、右抗弁はその余の点について触れるまでもなく、失当というべきであり、従つて被告会社は本件加害車両の運行供用者として自賠法三条所定の責任を免れ得ないものといわなければならない。

三  損害

(一)  克仁 計金八三六万三、四五八円

1  逸失利益 金六三六万三、四五八円

克仁が昭和四六年七月二〇日生れの男児であつて健康に恵まれて順調に成育していたことは前示のとおりであるが、(本件事故当時満一年六月)「昭和四八年簡易生命表」(厚生省)によれば本件事故年度における満一才の男児の平均余命は七〇・六一年であつたから、克仁は本件事故に遭遇しなければ満一八才時から平均余命の範囲内である満六三才時までの四五年間は稼働可能であつて、その間、年間少くとも本件事故年度における高校卒男子初任給による年間総給与額と同額の収入を挙げ得たものと看るのが相当であるところ、公知というべき「賃金構造基本統計調査報告(昭和四七年度)」によると、昭和四七年度における高校卒男子初任給による年間総給与額は金八〇万七、一〇〇円であり、また克仁が右稼働可能な期間に要する一年当りの生活費は右年収額の五〇パーセントと看るべきであるから克仁の右稼働可能期間内における年間純益額は金四〇万三、五五〇円となる。

そこで、ホフマン方式計算法(複式)により年五分の割合による中間利息を控除して克仁の逸失利益の現価を算定すると、金六三六万三、四五八円となる(別紙計算表参照)。

2  慰謝料 金二〇〇万円

克仁の本件事故当時における年令などを考慮すると、その慰謝料額は金二〇〇万円をもつて相当と認める。

(二)  相続 各金四一八万一、七二九円宛

原告栄が克仁の父であり、原告カホルがその母であつたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕に徴すると克仁には原告ら両名の他には相続人がいなかつたことが明らかであるから、原告らは前記(一)項認定に係る克仁の損害賠償請求権を各二分の一宛を相続したものというべきである。

(三)  原告栄 計金一二五万五、二五四円

1  治療費および遺体処置料 金八、五六〇円

原告らが本件事故に関し自賠責保険から金五〇〇万円の保険金の他に金八、五六〇円の給付を受けていることは当事者に争いがなく、この点に照すると、克仁の治療費並びにその遺体処置料として合計金八、五六〇円を要したことが明らかであり、克仁と原告栄との前示身分関係に鑑みると、右は原告栄の損害と認めるのが相当である。

2  葬儀費 金二四万六、六九四円

〔証拠略〕によると、原告栄が主宰して克仁の葬儀を執行し、その費用として金二四万六、六九四円を支出したことが認められるが、克仁の年令や右結果によつて窺い得る原告栄の社会的地位などに鑑みると、右支出額は相当というべきである。

3  慰謝料 金一〇〇万円

克仁と原告栄との前示の如き身分関係などに徴すると、原告栄の慰謝料は金一〇〇万円をもつて相当と認める。

(四)  原告カホル 計金一〇〇万一、二〇〇円

1  付添費 金一、二〇〇円

〔証拠略〕に徴すると、克仁は本件事故直後に日本水素病院(福島県いわき市小名浜字高山三四番地所在)に収容されたが、原告カホルは克仁が同病院において死亡するまでこれに付添つたことが明らかであるのでその費用として金一、二〇〇円を同原告の損害と認める。

2  慰謝料 金一〇〇万円

原告カホルが克仁の母親であることや本件事故が同原告の目前で発生したものであることなどを考慮すると、その慰謝料額は金一〇〇万円をもつて相当と認める。

(五)  過失相殺並びに損害の填補

1  過失相殺 (五割)

本件事故は、未だ危険の予知・回避能力は勿論のことその何んたるかすらも弁識し得ない満一年六月の幼児である克仁が、まさに発進・進行しようとしていた本件加害車両に接近して遭遇した痛ましい事故であつて、母親たる原告カホルが終始その傍に付添ながらなお防止し得ず、悲惨極わまりない結果を招来してしまつたものであるが、前記一項(一)の1において認定した本件事故に至る前後の具体的事情に鑑みるならば、たやすく危険を予見し得た筈である原告カホルが幼児の母親として至極当然な、一挙手一投足の労をもつて足りる例えば手を繋ぐなどの保護措置をとつていさえしたならば容易にあの悪夢の如き一瞬を避け得たであろうことは明白であつて、原告カホルに重大な監護義務の懈怠があつたことは改めて詳論するまでもないところである。

そして、原告カホルの右義務懈怠の重大性を考慮すると、過失相殺により克仁並びに原告らの損害から五割を減額するのを相当と認めざるを得ない。

2  損害の填補 (各金二五〇万四、二八〇円)

右の過失相殺をなすと、相続分を含む原告らの損害額は、原告栄が金二七一万八、三四一円(円未満切捨て)、原告カホルが金二五九万一、四六四円(円未満切捨て)となるところ、本件事故に関し自賠責保険から金五〇〇万八、五六〇円の給付があつたことは当事者間に争いがなく、克仁に原告ら両名の他には相続人がなかつたことは叙上のとおりであるから、原告らはこれを各二分の一宛右各損害に充当したものと看るべきである。

3  そうとすると、原告らの弁護士費用を除く未填補の損害額はそれぞれ次のとおりとなる。

(1) 原告栄 金二一万四、〇六一円

(2) 原告 カホル 金八万七、一八四円

(六)  弁護士費用

原告らの右認容額並びに本件訴訟の経緯などに鑑みると、本件事故との相当因果関係の存在を肯認し得る損害としての弁護士費用の額は、次のとおりと認めるのが相当である。

1  原告 栄 金三万円

2  原告 カホル 金一万円

四  結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求は被告ら各自に対し、原告栄において金二四万四、〇六一円、原告カホルにおいて金九万七、一八四円および右各金員に対する本件事故発生の後であつて被告らに対し本訴状が送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年一〇月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容することとし、その余はいずれも失当であるので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条・九二条・九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決するが、被告らの仮執行宣言免脱の申立はいずれも相当でないので却下する。

(裁判官 川原誠)

現場見取図

<省略>

計算表

403,550(円)×(27.8456-12.0769)≒6,363,458(円)(円未満切捨て)

但し、62年のホフマン計数を27,8456,17年のホフマン計数を12.0769とする。

(以上)

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